【知識】
- 多くは上気道感染後に発症し, 1-2週間進行したのち自然経過で改善に向かう単層性の経過
- 発症6ぁ月で症状はほとんど消失する
- 平均発症年齢は40歳, 男性が多い
- 3-5月に多い
【症状】
<先行イベント>
- 80-90%では先行感染が認められる
*うち80%が上気道炎, 4-25%は胃腸炎 - 上気道炎:Haemophilus influenzae
胃腸炎:Campylobacter jejuni
が多い
*3位:サイトメガロウイルス, 4位:肺炎マイコプラズマ
**Haemophilus influenzae, Campylobacter jejuniの菌体外膜にGQ1b様構造が存在することが明らかになっている - サイトメガロウイルスの場合:球麻痺や四肢感覚障害を合併しやすく, 重症化しやすい
*Bickerstaff 型脳幹脳炎の合併例も多い - 感染から発症までの中央値は7日間
<3徴候>
- 外眼筋麻痺
- 運動失調
*運動失調性構音障害を認めないことから深部感覚障害と考えられている - 腱反射消失
3徴候のみで経過する純粋型は半数程度.
<その他の症状>
- 瞳孔異常:散瞳, 瞳孔不同(42%)
- 眼瞼下垂(58%)
- 顔面神経麻痺, 球麻痺(30%)
- 四肢のしびれ感/異常感覚(24-45%)
- 表在覚, 深部感覚低下(20%)
<注意すべき症状>:経過中に発症する症状
- 四肢の筋力低下:GBSへ発展する兆候
- 呼吸筋麻痺-補助換気を要する:GBS単独よりFSからの移行例で多い
- 意識障害:Bickerstaff 型脳幹脳炎へ発展する兆候
<疾患スペクトラム>
| スペクトラム | 特徴 |
| 不全型 (GQ1b抗体陽性) | |
| 急性眼筋麻痺 | 3徴の運動失調を欠く |
| 急性運動失調 | 3徴の外眼筋麻痺を欠く |
| 急性内眼筋麻痺 | 外眼筋麻痺の代わりに内眼筋麻痺 を伴う |
| 急性眼瞼下垂 | 眼瞼下垂のみを示す |
| 移行型 | |
| Bickerstaff 型脳幹脳炎 | 中枢神経徴候を合併 *詳細は下記参照 |
| 類似疾患(下記代表例) | FSの3徴候を認めたり, 内眼筋麻痺を伴うものなど様々 |
| 咽頭, 頸部, 上腕型GBS | 球症状を発症し, 下降性に拡大 →頸部, 上肢の筋力低下が特徴 GT1a, GQ1b抗体が陽性多い |
| 急性口咽頭麻痺 | 球症状をきたし, 腱反射消失を伴い, 外眼筋麻痺を伴わない GQ1b, GT1aが陽性になる群 |
【検査】
<血液検査>
- IgG型GQ1b抗体(80%陽性)
*GQ1bが眼運動神経(11-13%), 後根神経節大型感覚ニューロン, 筋紡錘に特に豊富に発現している
末梢組織では5%程度の発現
**上記の不全型や移行型, 類似疾患でも高率に認める - GT1a抗体:GQ1bと同じ糖鎖末端構造を持つ
<髄液検査>
- 蛋白上昇:発症1週間以内は25%程度しか認めない. 3週間目には82%が認める
*GBSとのオーバーラップ症候群やBickerstaff 型脳幹脳炎ではより高率に認める - 蛋白細胞解離:50%程度に認める
*発症1週間以内は36%,2週間以降は75%に認める - 細胞数上昇:7%程度に認める
<神経伝導検査>
1, 運動神経伝導はF波を含めて正常
2, 感覚神経伝導は32%で活動電位振幅低下
3, 脛骨神経体性感覚誘発電位は19%で異常
4, ヒラメ筋H波は67%で消失
5, 重心動揺パワースペクトラム解析では57%で1Hzのピーク(末梢神経障害パターン)
- SNAPの低下, AMANの運動神経でみられるような非脱髄性可逆性伝導不全が感覚神経で認めることがある(7-44%)
*正中神経/尺骨神経で低下し腓腹神経は保たれる(abnormal median /ulnar normal sural)
**神経生検でAMAN同様の脱髄所見を伴わないマクロファージ浸潤を伴うRanvier絞輪部の拡大やパラノードの異常などが報告されている
***パラノード:Ranvier絞輪の両端にある構造で, 軸索とRanvier絞輪を接着させている
****GBSへの移行例では急性期の急性期に運動神経急性期に運動神経の異常を全することが急性期に運動神経の異常を呈する確率が高い
【鑑別】
外眼筋麻痺+運動失調をきたす=脳幹/多発脳神経障害を認めるもの

- ビタミンB1欠乏症の鑑別:アルコール多飲歴, 典型例はMRIで中脳水道周囲や乳頭体にMRIで異常を認める
- 甲状腺眼症:甲状腺機能異常, 画像で外眼筋の肥厚を認める
- ボツリヌス中毒:汚染された食物摂取後12-36時間以内に生じる
【診断】
- 臨床診断
- 3徴候が中核
- GBS同様の急性経過
- 他疾患の除外
(筋力低下なく,錐体路障害がない, 傾眠など意識障害がない) - 補助としてGQ1b抗体陽性
- Brighton基準
糖脂質抗体陽性を合わせると感度が上昇する

【治療】:予後良好な疾患のため治療してもしなくても症状は改善する
<IVIG>
- 重症例や重症化予防目的に行う
- 運動失調に関して治療した群のほうが改善が早かった
| 疾患 | 示唆する所見 |
| GBS移行例 オーバーラップ症候群 | ・四肢脱力 ・内眼筋麻痺 ・球症状 ・神経伝導検査で異常 |
| Bickerstaff 型脳幹脳炎 | ・意識水準の低下 ・錐体路兆候 |
【予後】
- 運動失調:平均1カ月で改善
- 外眼筋麻痺:平均3か月で改善
=予後良好な疾患
*免疫治療をしてもしない時と改善時期は変わらないくらい予後がいい
**咽頭, 頸部, 上腕型GBS(23%), 典型的GBS(15%),Bickerstaff 型脳幹脳炎( 12%)へ発展しうる
- 再発率:1.4%程度
*最大7回再発した報告がある
**再発しても予後は良好
【Bickerstaff 型脳幹脳炎】
<病態>
- BBBの破綻により脳幹へGQ1b抗体などの抗体が侵入し, 脳幹脳炎へと至る
<症状>
- フィッシャー症候群+意識障害, 錐体路兆候
*3徴としては両側外眼筋麻痺, 運動失調, 意識水準の低下 - 急性期は2割ほど人工呼吸器管理が必要になる
- 症状は単相性の経過をたどる
*1週間程度でピークに達することが多い - 比較的予後はいいが, 1割程度3か月後も独歩不能な症例がある
<検査>
- 血液検査:GQ1b抗体が高率に認められる
*他に2割程度にGM1, GD1a, Ga1NAc-GD1aのいずれかが陽性 - 髄液検査:細胞数増多, 蛋白高値が4割程度に認める
- 電気生理学(脳波, 神経伝導検査):中枢性障害も末梢性障害もどちらも認める
<診断>

【参考文献】
1, 日本神経学会, 日本神経治療学会, 日本神経免疫学会, 日本末梢神経学会.
ギラン・バレー症候群, フィッシャー症候群診療ガイドライン2024.
東京: 日本神経学会; 2024.
2, Suzuki C. Fisher Syndrome.
BRAIN and NERVE. 2024;76(5):508‑514.
doi:10.11477/mf.1416202636
3, 桑原聡.フィッシャー症候群の病態—運動失調をめぐる論争と現状.
BRAIN and NERVE. 2016;68(12):1411‑1414.

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